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小さいリアクティビティシステムを実装してみる

Proxy を使ったリアクティビティの仕組み

現在の vuejs/core との設計の違いについて

現在 (2024/12)の Vue.js のリアクティビティシステムでは,doubly linked list ベースの Observer Pattern が採用されています.
この実装は Refactor reactivity system to use version counting and doubly-linked list tracking で行われ,パフォーマンスの向上に寄与しました.

しかし,初めてリアクティビティシステムを実装する人にとっては少し難しいものになっており,今回のこのチャプターでは従来 (改善以前) のものをより簡略化したものの実装を行います.
より現在の実装に近いものは リアクティビティの最適化 にて解説します.

また,もう一つ大きな改善として,feat(reactivity): more efficient reactivity system がありますが,こちらも別のチャプターで解説します.

改めて目的を明確にしておくと,今回の目的は「ステートが変更された時に updateComponent を実行したい」です.
Proxy を用いた実装の流れについて説明してみます.

まず,Vue.js のリアクティビティシステムには target, Proxy, ReactiveEffect, Dep, track, trigger, targetMap, activeEffect (現在は activeSub) というものが登場します.

まず,targetMap の構造についてです.
targetMap はある target の key と dep のマッピングです.
target というのはリアクティブにしたいオブジェクト,dep というのは実行したい作用(関数)だと思ってもらえれば大丈夫です.
コードで表すとこういう感じになります.

ts
type Target = any // 任意のtarget
type TargetKey = any // targetが持つ任意のkey

const targetMap = new WeakMap<Target, KeyToDepMap>() // このモジュール内のグローバル変数として定義

type KeyToDepMap = Map<TargetKey, Dep> // targetのkeyと作用のマップ

type Dep = Set<ReactiveEffect> // depはReactiveEffectというものを複数持っている

class ReactiveEffect {
  constructor(
    // ここに実際に作用させたい関数を持たせます。 (今回でいうと、updateComponent)
    public fn: () => T,
  ) {}
}

「ある target (オブジェクト)」 の「ある key」 に対して「ある作用」 を登録するということになります.

パッと見のコードだけだと分かりづらいと思うので具体例と図による補足です.
以下のようなコンポーネントがあったと考えてみます.

ts
export default defineComponent({
  setup() {
    const state1 = reactive({ name: "John", age: 20 })
    const state2 = reactive({ count: 0 })

    function onCountUpdated() {
      console.log("count updated")
    }

    watch(() => state2.count, onCountUpdated)

    return () => h("p", {}, `name: ${state1.name}`)
  }
})

このチャプターではまだ watch は実装していないのですが,イメージのために書いてあります.
このコンポーネントでは最終的にかのような targetMap が形成されます.

target_map

targetMap の key は「ある target」 です.この例では state1 と state2 がそれにあたります.
そして,これらの target が持つ key が targetMap の key になります.
そこに紐づく作用がその value になります.

() => h("p", {}, name: ${state1.name}) の部分で state1->name->updateComponentFn というマッピングが登録され,watch(() => state2.count, onCountUpdated) の部分で state2->count->onCountUpdated というマッピングが登録されるという感じです.

基本的な構造はこれが担っていて,あとはこの TargetMap をどう作っていくか(どう登録していくか)と実際に作用を実行するにはどうするかということを考えます.

そこで登場する概念が tracktrigger です. それぞれ名前の通り,trackTargetMap に登録する関数,triggerTargetMap から作用を取り出して実行する関数です.

ts
export function track(target: object, key: unknown) {
  // ..
}

export function trigger(target: object, key?: unknown) {
  // ..
}

そして,この track と trigger は Proxy の get と set のハンドラに実装されます.

ts
const state = new Proxy(
  { count: 1 },
  {
    get(target, key, receiver) {
      track(target, key)
      return target[key]
    },
    set(target, key, value, receiver) {
      target[key] = value
      trigger(target, key)
      return true
    },
  },
)

この Proxy 生成のための API が reactive 関数です.

ts
function reactive<T>(target: T) {
  return new Proxy(target, {
    get(target, key, receiver) {
      track(target, key)
      return target[key]
    },
    set(target, key, value, receiver) {
      target[key] = value
      trigger(target, key)
      return true
    },
  })
}

reactive

ここで,一つ足りない要素について気づくかもしれません.それは「track ではどの関数を登録するの?」という点です. 答えを言ってしまうと,これが activeEffect という概念です. これは,targetMap と同様,このモジュール内のグローバル変数として定義されていて,ReactiveEffect の run というメソッドで随時設定されます.

ts
let activeEffect: ReactiveEffect | undefined

class ReactiveEffect {
  constructor(
    // ここに実際に作用させたい関数を持たせます。 (今回でいうと、updateComponent)
    public fn: () => T,
  ) {}

  run() {
    activeEffect = this
    return this.fn()
  }
}

どのような原理かというと,このようなコンポーネントを想像してください.

ts
{
  setup() {
    const state = reactive({ count: 0 });
    const increment = () => state.count++;

    return function render() {
      return h("div", { id: "my-app" }, [
        h("p", {}, [`count: ${state.count}`]),
        h(
          "button",
          {
            onClick: increment,
          },
          ["increment"]
        ),
      ]);
    };
  },
}

これを,内部的には以下のようにリアクティブを形成します.

ts
// chibivue 内部実装
const app: App = {
  mount(rootContainer: HostElement) {
    const componentRender = rootComponent.setup!()

    const updateComponent = () => {
      const vnode = componentRender()
      render(vnode, rootContainer)
    }

    const effect = new ReactiveEffect(updateComponent)
    effect.run()
  },
}

順を追って説明すると,まず,setup 関数が実行されます. この時点で reactive proxy が生成されます.つまり,ここで作られた proxy に対してこれから何か操作があると proxy で設定した通り動作をとります.

ts
const state = reactive({ count: 0 }) // proxyの生成

次に,updateComponent を渡して ReactiveEffect (Observer 側)を生成します.

ts
const effect = new ReactiveEffect(updateComponent)

この updateComponent で使っている componentRendersetup戻り値の関数です.そしてこの関数は proxy によって作られたオブジェクトを参照しています.

ts
function render() {
  return h('div', { id: 'my-app' }, [
    h('p', {}, [`count: ${state.count}`]), // proxy によって作られたオブジェクトを参照している
    h(
      'button',
      {
        onClick: increment,
      },
      ['increment'],
    ),
  ])
}

実際にこの関数が走った時,state.countgetter 関数が実行され,track が実行されるようになっています.
この状況下で,effect を実行してみます.

ts
effect.run()

そうすると,まず activeEffectupdateComponent (を持った ReactiveEffect) が設定されます.
この状態で track が走るので,targetMapstate.countupdateComponent (を持った ReactiveEffect) のマップが登録されます.
これがリアクティブの形成です.

ここで,increment が実行された時のことを考えてみましょう.
increment では state.count を書き換えているので setter が実行され,trigger が実行されます.
triggerstatecount を元に targetMap から effect(今回の例だと updateComponent)をみつけ,実行します. これで画面の更新が行われるようになりました!

これによって,リアクティブを実現することができます.

ちょっとややこしいので図でまとめます.

reactivity_create

これらを踏まえて実装しよう

一番難しいところは上記までの理解なので,理解ができればあとはソースコードを書くだけです.
とは言っても,実際のところどうなってるのかよく分からず上記だけでは理解ができない方もいるでしょう.
そんな方も一旦ここで実装してみましょう.それから実際のコードを読みながら先ほどのセクションを見返してもらえたらと思います!

まずは必要なファイルを作ります.packages/reactivityに作っていきます. ここでも本家 Vue の構成をなるべく意識します.

sh
pwd # ~
mkdir packages/reactivity

touch packages/reactivity/index.ts

touch packages/reactivity/dep.ts
touch packages/reactivity/effect.ts
touch packages/reactivity/reactive.ts
touch packages/reactivity/baseHandler.ts

例の如く,index.ts は export しているだけなので特に説明はしません.reactivity 外部パッケージから使いたくなったものはここから export しましょう.

dep.ts からです.

ts
import { type ReactiveEffect } from './effect'

export type Dep = Set<ReactiveEffect>

export const createDep = (effects?: ReactiveEffect[]): Dep => {
  const dep: Dep = new Set<ReactiveEffect>(effects)
  return dep
}

effect の定義がないですがこれから実装するので Ok です.

続いて effect.ts です.

ts
import { Dep, createDep } from './dep'

type KeyToDepMap = Map<any, Dep>
const targetMap = new WeakMap<any, KeyToDepMap>()

export let activeEffect: ReactiveEffect | undefined

export class ReactiveEffect<T = any> {
  constructor(public fn: () => T) {}

  run() {
    // ※ fnを実行する前のactiveEffectを保持しておいて、実行が終わった後元に戻します。
    // これをやらないと、どんどん上書きしてしまって、意図しない挙動をしてしまいます。(用が済んだら元に戻そう)
    let parent: ReactiveEffect | undefined = activeEffect
    activeEffect = this
    const res = this.fn()
    activeEffect = parent
    return res
  }
}

export function track(target: object, key: unknown) {
  let depsMap = targetMap.get(target)
  if (!depsMap) {
    targetMap.set(target, (depsMap = new Map()))
  }

  let dep = depsMap.get(key)
  if (!dep) {
    depsMap.set(key, (dep = createDep()))
  }

  if (activeEffect) {
    dep.add(activeEffect)
  }
}

export function trigger(target: object, key?: unknown) {
  const depsMap = targetMap.get(target)
  if (!depsMap) return

  const dep = depsMap.get(key)

  if (dep) {
    const effects = [...dep]
    for (const effect of effects) {
      effect.run()
    }
  }
}

track と trigger の中身についてこれまで解説していないのですが,単純に targetMap に登録をしたり取り出して実行したりしているだけなので頑張って読んでみてください.

続いて baseHandler.ts です.ここには reactive proxy のハンドラを定義します.
まあ,reactive に直接実装してもいいのですが,本家がこうなっているので真似してみました.
実際には readonly や shallow などさまざまなプロキシが存在するのでそれらのハンドラをここに実装するイメージです.(今回はやりませんが)

ts
import { track, trigger } from './effect'
import { reactive } from './reactive'

export const mutableHandlers: ProxyHandler<object> = {
  get(target: object, key: string | symbol, receiver: object) {
    track(target, key)

    const res = Reflect.get(target, key, receiver)
    // objectの場合はreactiveにしてあげる (これにより、ネストしたオブジェクトもリアクティブにすることができます。)
    if (res !== null && typeof res === 'object') {
      return reactive(res)
    }

    return res
  },

  set(target: object, key: string | symbol, value: unknown, receiver: object) {
    let oldValue = (target as any)[key]
    Reflect.set(target, key, value, receiver)
    // 値が変わったかどうかをチェックしてあげておく
    if (hasChanged(value, oldValue)) {
      trigger(target, key)
    }
    return true
  },
}

const hasChanged = (value: any, oldValue: any): boolean =>
  !Object.is(value, oldValue)

ここで,Reflect というものが登場していますが,Proxy と似た雰囲気のものなんですが,Proxy があるオブジェクトに対する設定を書き込む処理だったのに対し,Reflect はあるオブジェクトに対する処理を行うものです.
Proxy も Reflect も JS エンジン内のオブジェクトにまつわる処理の API で,普通にオブジェクトを使うのと比べてメタなプログラミングを行うことができます.
そのオブジェクトを変化させる関数を実行したり,読み取る関数を実行したり,key が存在するのかをチェックしたりさまざまなメタ操作ができます.
とりあえず,Proxy = オブジェクトを作る段階でのメタ設定, Reflect = 既に存在しているオブジェクトに対するメタ操作くらいの理解があれば OK です.

続いて reactive.ts です.

ts
import { mutableHandlers } from './baseHandler'

export function reactive<T extends object>(target: T): T {
  const proxy = new Proxy(target, mutableHandlers)
  return proxy as T
}

これで reactive 部分の実装は終わりなので,mount する際に実際にこれらを使ってみましょう.
~/packages/runtime-core/apiCreateApp.tsです.

ts
import { ReactiveEffect } from '../reactivity'

export function createAppAPI<HostElement>(
  render: RootRenderFunction<HostElement>,
): CreateAppFunction<HostElement> {
  return function createApp(rootComponent) {
    const app: App = {
      mount(rootContainer: HostElement) {
        const componentRender = rootComponent.setup!()

        const updateComponent = () => {
          const vnode = componentRender()
          render(vnode, rootContainer)
        }

        // ここから
        const effect = new ReactiveEffect(updateComponent)
        effect.run()
        // ここまで
      },
    }

    return app
  }
}

さて,あとは playground で試してみましょう.

ts
import { createApp, h, reactive } from 'chibivue'

const app = createApp({
  setup() {
    const state = reactive({ count: 0 })
    const increment = () => {
      state.count++
    }

    return function render() {
      return h('div', { id: 'my-app' }, [
        h('p', {}, [`count: ${state.count}`]),
        h('button', { onClick: increment }, ['increment']),
      ])
    }
  },
})

app.mount('#app')

reactive_example_mistake

あっ………

ちゃんとレンダリングはされるようになりましたが何やら様子がおかしいです. まぁ,無理もなくて,updateComponentでは毎回要素を作っています. なので,2 回目以降のレンダリングの際に古いものはそのままで,新しく要素が作られてしまっているのです. なので,レンダリング前に毎回要素を全て消してあげましょう.

~/packages/runtime-core/renderer.tsの render 関数をいじります.

ts
const render: RootRenderFunction = (vnode, container) => {
  while (container.firstChild) container.removeChild(container.firstChild) // 全消し処理を追加
  const el = renderVNode(vnode)
  hostInsert(el, container)
}

さてこれでどうでしょう.

reactive_example

今度は大丈夫そうです!

これで reactive に画面を更新できるようになりました!!

ここまでのソースコード: GitHub

Released under the MIT License.